藤木屋幹さん

2015年11月17日 vol.20

藤木屋 幹助
(Mikisuke Fujikiya)

1980年生まれ 35歳
男の着物 藤木屋 代表
ネクタイとシャツを合わせたスーツ生地着物など、独自路線の男着物をオーダーメイドで仕立てている。その路線は一見アバンギャルドだが、藤木屋さんは、あくまでも実用的な着物をつくったに過ぎないと語る。ここには、呉服屋ではなくスーツやファッション業界で実績をあげてきた藤木屋さんならではの、着物を日常に取り入れるセンスが垣間見える。藤木屋の店頭以外に、芸能人のメディア出演の際の衣装を担当するなど男着物スタイリストとしても活躍の場が広がっている。

僕は保守的な人間ですよ。ただ固定概念はないですね。

藤木屋 >> http://www.fujikiya-kimono.com

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僕は奇をてらったものをやったつもりは一切なくて、実用的なものをいつも考えています。

– 昔から独立願望はあったのですか?

もともとは独立したいなんて思っていませんでしたよ。
起業家になるような器じゃないと考えていましたからね。
僕はただサラリーマンになりたいと思っていました。

– では就職活動をされたのですね?

はい、ただ、就職氷河期だったこともあって、149社の会社にふられ、
大学4年生の12月まで就職先が決まらなかったんですよ。
150社目で就職活動前からご縁のあった会社に内定をいただき、そこで働くことに決めました。

– ものすごい数の会社にアタックしましたね。就職先は着物関係だったのですか?

いえ、自動車メーカーの関係会社で、自動車の広報活動としてイベントを企画・実施する会社でしたね。
ただ2年という短い期間で辞めてしまいました。

– なぜ辞めたんですか?

大手自動車メーカーということもあり、自分の活動がどのくらい自動車の販売に貢献できているのか、数字として出てくるわけではなく、そこにあまりやりがいを得られなかったんですよ。
もっと、数字に直結するような仕事がしたかったんですよね。
で、当時興味があったのはスーツだったので、それなら結果が数字として出てくるスーツの販売をやろうと、スーツのオーダーメイドのお店で働くことになったんです。
その傍ら、ファッションについて本格的に学ぶために、ファッションの専門学校にも1年通い、卒業後に大手アパレルメーカーに勤め、ファッションでも実践経験を積んだのち、“男の着物 藤木屋”を立ち上げています。

– 最初は着物ではなくスーツ、そしてそのあとはファッションだったんですね。

そうなんですよ。
でもこのスーツとファッションについて経験したことが、
のちの藤木屋のスタイルをつくりあげる大きな要因となったんです。

– といいますと?

藤木屋は立ち上げた当初から、スーツ生地を使った着物をオーダーメイドでつくっています。
もとをいえばこれがかなりの反響があって、徐々に藤木屋の名前が広がってきたのですが、このスーツ生地を使った着物をやった理由は、実は着物地の仕入れ方がわからなかったからなんです。

着物をやりたいけど、着物地の仕入れ方はわからない・・・
でもスーツ生地なら仕入れ方を知っているし、スーツ生地で着物をつくってみよう、
となったわけです。
アバンギャルドとか革新的とか、そんなことは何も考えていなくて、
僕にできるのがスーツ生地の着物だった、ただそれだけのことだったんです。

– まさかそんな理由だったとは思いませんでした。

ただ、実際につくってみたら、スーツ生地が着物に馴染みすぎていて、違和感がなかったんですよね。
売れるものをつくるためには良い意味で違和感とかキャッチーなものがないとだめなんです。でもそれがなかった。

– なるほど、でもスーツ生地しか仕入れ方を知らないので、それは困りますよね。

どうしようかなと考えていたのですが、
“スーツといえば、シャツとネクタイだ”と思い、
スーツ生地の着物にシャツとネクタイを合わせてみることにしたんですよ。
そうやってできたのが、このスーツ生地着物のスタイルです。

別にアバンギャルドな考え方で、着物をスーツ風に仕立てようなんて思っていたわけではなく、スーツの生地でつくった意味を表に出したかっただけなんですよね。

でも、これはものすごい反響があったんですよ!

ネクタイとシャツを合わせたスーツ生地着物

ネクタイとシャツを合わせたスーツ生地着物

 
 

ちなみに藤木屋では着物にタートルネックを合わせるスタイルもやっていますが、
これをやった理由は単純で、寒いからですよ。
だけど、それが逆に差し色になって面白い方向に打ち出せている。

僕は奇をてらったものをやったつもりは一切なくて、実用的なものをいつも考えています。
そして最終的に仕上げる段階で、これまで経験してきたファッションの感覚を織り込んでいます。

タートルネックと合わせた着物 *写真はデニム生地を使ったデニム着物

タートルネックと合わせた着物 *写真はデニム生地を使ったデニム着物

僕は保守的な人間ですよ。ただ固定概念はないですね。

– なるほど、かなりチャレンジングなことをなさっていると思っていましたが、そうでもないのでしょうか?

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僕は、アバンギャルドを狙っているとかそういうふうに見られがちですが、どちらかというと保守的な人間だと思うんですよね。

着物の下にシャツを着るのって先進的かなと思いきや、実は明治大正時代の学生さんの着方なんですよ。
着物にシャツとネクタイの写真も100年以上も昔に存在していますよ。
もっとも、この辺はあとで知ったことですが。
ファッション的な感覚で売れるものをつくるというよりは、実用的な見地からスタイルをつくりあげるという、割と堅実なやり方かなと思います。

それから藤木屋では、筒そでといって、通常の角そでに比べてそでがスリムなものをつくっていますが、それも別にファッションとかではなくて、そでが広いと寒いときにコートが着れないから、そでスリムにしているだけですよ。

実はこれも昔からあって、上野の西郷さんの像も筒そでですよ。

藤木屋がやっていることは、
“新しい何かを考えているのではなく、昔からあるものを今の時代に落とし込んでカスタマイズしている”
というだけですよ。

– 藤木屋 幹助さんだからこそできることですよね。

そうですね。
僕はアパレルにいてファッションについても経験がありますから、それが活かせていると思います。
着物屋さんでずっとやってきた人にはない感覚がありますし、着物に対する固定概念もないですよ。これまでの経験とか全部繋がっているんですよ。

例えアイデアが小さなものでも、行動して動かすことができれば何か変わるだろうと思います。

– 藤木屋 幹助さんが、自分に合っていたな、という独立の方法はありますか?

そうですね、独立するまでの助走期間があったことと、藤木屋を一緒に立ち上げる仲間がいたことの2つですね。
僕は実は一人でこの藤木屋を立ち上げたわけではないんですよね。

– てっきり一人かと思っていましたが。

実質運営しているのは僕一人ですが、
藤本という人間がいて、藤本+木寺(藤木屋さんの本名)、で藤木屋と命名したんですよ。

– 藤本さんは何者なんですか?

藤本は藤木屋をやる前から自分でITビジネスを立ち上げて成功している人だったんですよね。
だから経営とかIT面ではかなり力を借してくれましたし、彼がいなければ今の藤木屋はなかったかもしれません。
帳簿を毎月藤本に見せなきゃいけないというのも、いい緊張感があって、無駄に在庫をかかえないようにしようとか、一つ一つの仕事がより丁寧になったと思います。

– 助走期間についても聞かせてください。

僕は自動車のイベント会社のあと、スーツのオーダーメイド、アパレルショップと渡り歩いてきましたが、
その期間は本当に重要で、藤木屋のスタイルを確立する核となるようなものを学んできました。
どういうものが売れるのか、どういう問屋がどこにあるのかなど、その辺の情報はもちろん、ファッションに関すること、採寸技術など、男着物をやる上で必要なことに加えて、着物屋さんだけをずっとやってきた人にはわからないことをたくさん吸収してきました。

– なるほど

今や男着物は、大手も進出してきていますが、
大手企業にはできないこともあることは経験上なんとなくわかっていますし、百貨店ではできない接客っていうのもなんとなくわかっています。
それは僕がそういうところで勤めてきたからこそなんですよね。他の企業では実践できないことを藤木屋でやっています。
そういった意味で、この助走期間は本当に財産です。
この助走期間なしに今の藤木屋はできなかったですよ。

– 今まで積み上げてきたものを活かして何かをやるってものすごく強みになりますよね。ビジネスマンとしての藤木屋 幹助さんの特徴は何でしょう?

フットワークが軽いとは本当によくいわれますよね。
僕はアイデアマンではありませんが、例えアイデアが小さなものでも、
それを動かすことができれば何か変わるだろうと思います。
言うのは簡単だけど行動に起こして実現できる人って思いの外いないですよね。

– なるほど、話をお伺いしていて確かにフットワークが軽い方だと思いました。それから、人とコミュニケーションをとることが好きなんだろうなという印象もあります。

そうですね、コミュニケーションは本当に大切にしていますね。
僕ほど問屋さんに行っている人間はいないと思いますよ。
でもそれって実はとても大切なこと。
毎日顔見せていると、いい情報を教えてくれたりするんですよ。
こちらからも色々提案できるようになりますし、すごくいい関係性ですよね。
電話発注だとそんなことはありませんからね。

– 対面で人間関係を築くって大切ですよね。自分に入ってくる情報の質が変わります。

そうなんですよ。
そうやって築いてきた人間関係って本物ですし、いざとなったときに助けてくれたりするんですよ。
以前、金曜にもかかわらず、1日で想像以上にものが売れて、土日を前にして在庫が足りなくなったときなんか、僕がどうしてもお店を離れられない事情を知った問屋さんが、わざわざお店まで品物を持ってきてくれましたからね。

– 藤木屋 幹助さんの人柄があってこその対応ですよね。

僕は人間関係は大切にしたいですから、問屋さんは会計担当の方ともしっかりコミュニケーションをとりますし、配達にきてくれる宅急便の人とも仲良いですよ。笑

そういうところは間違っていないんだろうなと思います。

– やっぱり何やるにしても人間関係は大切ですよね。今日はありがとうございました!

 
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コンセプト
これからの時代、共感という言葉が人々をつなぐ一つのキーワードになると考えています。人として生き方や価値観に共感できる人たちと一緒にビジネスをしたい、そういう人たちのサービスを使いたいと思う人がより増えてくることでしょう。
当メディアでは、どんな人生観をもった人がどんな想いで、サービスを提供しているのか、そんな観点から取材をし、記事にまとめています。